芸術的なカレシ
私のお気に入りだった(今は使えない真っ赤な)ソファーも、何とか三人で外に運び出した。
それを、嶋田くんと軽トラックに乗って、ごみ処理場まで持って行く。
「赤いソファーなんて、かっこいいね。
本当に捨てちゃうの?」
「前の彼氏が、塗ったんです。
結局、使えなくなっちゃって。
ほら、軍手も、真っ赤になってるでしょ?
色が粉になって、着いちゃうんです」
「あ、ホントだ。
僕のも、真っ赤」
運転席で軍手を脱いだ嶋田くんも驚いている。
全く、最後まで拓には迷惑をかけられる。
「赤に塗っちゃうなんて、前の彼は、自由な人だったんだ。
なかなかできないことだよね。
羨ましいな」
「……迷惑なだけでしたけど」
ソファーを乗せた軽トラックは発車する。
しはらく二人でラジオを聞きながら、色んなことを話した。
映画のこと。
本のこと。
音楽のこと。
好きな食べ物の話。
お気に入りのお店の話。
学生時代の失敗談。
それから嶋田くんも時々、前の彼女の話をしてくれた。
彼女もまた、拓のように自由を愛する人で、ヴァイオリンの先生をしていたらしい。
「いつも、言われてたよ。
光輝はまるで『普通』を絵に描いたような人だって」
そう言って嶋田くんはまつ毛を伏せたけれど、普通の何がいけないのだろう。
普通なんて、一番すごいことなのに。
「……贅沢な人だったんですね」
「そう。
僕の赤いボルボもね、彼女が選んだ車なんだ。
僕は黒のミニバンにする予定だったんだけど」
黒いミニバン。
嶋田くんには、あまりにもよく似合いすぎている。