芸術的なカレシ
狡いだなんて、と思う。
人間はきっと誰しもがそうで、ただ見ないフリをしたり正当化してみたり、誤魔化したりして生きているだけで。
こんな風に素直に、自分の狡さを他人に晒してしまえる嶋田くんは、なんて真っ直ぐで素敵なんだろう。
私もこんな風にありたいって、そう思える。
「いえ、私もそう思います。
現に、嶋田さんにはとても、救われました」
「あはは、瑞季ちゃん、嶋田さんはやめてよ。
光輝でいいよ」
「いや、いきなり、呼び捨てはムリです」
「そう?じゃあ、せめて、光輝くん、とか。
こうちゃん、とか、こうくん、とか……」
「こうくん……ですか」
「あっ、いいね! こうくん。
それでお願いできる?」
嶋田くん……こうくんはそう言って、またえくぼを見せてくれた。
このえくぼは特別だ。
よく見ていないと、すぐに見失ってしまいそう。
「それから、できれば敬語もやめてね」
「……はい。
あ、うん」
「あはは、急にはムリかな」
「難しいですね」
「まあ、徐々に」
そう、徐々に。
この人と一緒に、私らしく歩いていけたらなあ、と今は思う。
拓の存在は私の中で、まだまだ大きくて。
それこそこのソファーの赤みたいに、あちこちに色を付けて離れないのだけれど。
大抵のことは時間が解決してくれると信じているし。
こうくんの優しさは、私の気持ちを溶かしてくれるのには十分すぎて。
……勿体ないくらい。
そうしてあの忌々しい赤いソファーは、こうくんが運転する軽トラックに揺られて。
今日という日を境に、私の部屋から居なくなるのだ。
それが寂しくないと言えば……
嘘にはなるのだけれど。