芸術的なカレシ






「ごめんなさい。
ぼーっとしちゃって」


えへへ、と笑って誤魔化す。


「このまま、今から初売り行こうかって言ったの」


「初売りですか?」


「そう。
僕が毎年行ってる、ファストファッションブランドの。
嫌じゃなければ、だけど」


「……私、初売りって行ったことないんですけど」


「え、まじ?」



そう、マジ。
だって、お正月はいつも拓と寝正月。
こたつでゴロゴロして過ごしてた。

人が沢山いる時に、人が沢山いる所にわざわざ行くなんて、バカみたいだっていうのが拓の持論。
私も、極力外に出るのは避けたいタイプだし。



「すっごく混むけど、楽しいよ。
正月って感じで」


けれど、こうくんはウキウキモード。

たまには、そんなお正月もいいかな。
今まで経験してないことを、この機会に経験してみるのもいいかもしれない。



「……じゃあ、行ってみようかな」


「うん、行ってみよう!」




参拝を済ませてやっとの思いで人混みを避け、ボルボに滑り込むと、これまた混んでいる道路。
私達は繁華街から少し離れた駅前に車を停め、そこから電車で移動することにした。

全く、どこに行っても何をしてても人だらけ。
みんなどこへ行くんだろう。
浮き足立って、ワイワイやって。
クリスマスの次はお正月。
赤に白に鏡餅。
何がそんなに目出度いんだろう。
今日だって、昨日と同じ一日なのに。

……なんて、拓のような考え方に侵食されている自分に気付いて、思わず溜め息が出る。
















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