芸術的なカレシ





コーディネートしてあったバッグと靴も鏡の前で合わせてみた。
うん、やっぱりかわいい。



「瑞季ちゃん、よかったらこれ、プレゼントさせて?
お年玉」


「いえいえ!
そんな、いいですよ!」


「いいから、いいから。
ね、君は出口で待ってて」



試着室から出ると、こうくんは私の手からひょいとワンピースを取り上げてレジへ向かってしまった。
それから靴とバッグも。

あわわわ。
そんなつもりじゃなかったのに。



仕方がないのでこうくんに言われるまま出口で彼を待つ。
待ちながら、ぼんやりと考えていた。


優しさとお節介を履き違えてるって、前の彼女に言われたって言ってたっけ。
それって、こういうことなのかな。
もちろん、買ってもらえるのはそれで嬉しいけど。
やっぱりそれは、強引すぎる気がする。


荷物を持ってお店から出てきたこうくんは満足そう。
電車に乗って来た駅に戻り、駅前のカフェで軽く食事をしてボルボに乗る。



「これ」


私は一万円札を二枚、こうくんのボルボのドリンクホルダーに突っ込んだ。



「え? なに?」


「さっきのお洋服代です。
……ちょっと、足りないけど」


「いや、いいよ!」


「ダメですよ。
あれは、自分のために、自分で買いたいんです」


「……」


「プレゼントしてくれるって、嬉しかったけど。
気持ちだけ、受け取っておきます。
自分で買わなきゃ、意味ないんで」



そう。
私は少しでも変わるために、あのワンピースは自分で買わなきゃいけないんだ。
拓の呪縛から逃れるために、少しでも新しい自分になりたいから。























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