芸術的なカレシ





自分で言っていて、ハッとする。


私と拓だって、きっと同じだった。

付き合いたての頃は、あんなに気になっていた本心。
分かり合うことの難しさを痛感して、眠れない夜もあった。
拓が教師を辞めた頃は、今の彼にはどんな言葉が必要なのか必死に考えて。
少しでも拓のためになれたらと願っていた。

そういう時間を重ねていく内に、いつからか言わなくても顔を見れば大抵のことが分かるようにもなって。
分かってもらえるような気にもなって。
伝える努力もしないのに、分かってもらえないと勝手にイライラしたりした。

そんなことを繰り返して、すれ違ってばかり。

そう、あの時の別れだって。
もっと口にする言葉を大切に扱っていたら……


ああ、けれど今更だ。
今頃になって、そんなことに気が付いても。
もう遅いのに。




「そうだね、ありがとう。
瑞季ちゃんのおかげで、僕も少し、変われそうだ」


こうくんが、優しく笑う。


「いえ、こちらこそ」


私も笑ってそれに答えた。


そう、拓とのことは今更でも、これからこうくんとそういう時間を大切に過ごしていけばいい。
私達が忘れてしまっていたものを、少しずつ思い出して。
お互いを労り合って。

結婚ってきっと、そういうものだ。
薄く危ういものを、大切に大切に二人で積み上げていく。
他人と時を刻むというのは、そういうこと。




「今年も、よろしくね、瑞季ちゃん」


「こちらこそ、です」



まだよそよそしい二人。
いつかはもっと、この距離が縮まっていくんだろう。
それと同じ時間軸で、私の中で拓の存在は薄まっていくはず。


その時が来るのを、私達は時間を重ねながら、静かに待っていればいい。

きっと、それが。
これからの私の幸せなのだから。
































< 124 / 175 >

この作品をシェア

pagetop