芸術的なカレシ
どこからともなく司会が現れ、結婚披露パーティーが始まっても、拓が来ている様子はなかった。
シンプルなデザインの真っ白なマーメイドドレスを着た明日香と、タキシードを着たフレディが、喋り慣れた司会によって紹介される。
司会は英語も堪能で、出席者の約1/3を占める外国人のために流暢な英語も使った。
フレディの美男子ぶりに、大学の友人達は隣で息を飲む。
マジ?と声に出す者までいた。
けれども彼が男好きだという事実を知っているのは、この会場に居る数十人の中でもほんの僅かだろうと思う。
これまた綺麗な顔をした外国人の挨拶があった後、シャンパンで乾杯をした。
……拓がいないなんて、何だか拍子抜け。
私は大学の友人達と離れて、一人で窓の外を見ながらシャンパンを飲んでいた。
背の高いボーイが、前菜のサーモンマリネを持ってきてくれる。
お礼を言って、それを頬張りながらまた夜景を見ていた。
趣味のいいクラシック音楽に、ほどよい音量の雑談。
お酒の匂いとお肉の焼けるような香り。
ついこの間この夜景を見た後に、私は見たくもないものを見せ付けられてしまったんだ。
なんて、思い出したくもないことを思い出す。
あああ、つまらないな。
この花束を渡せたら、もう帰ろうかな。
そう思って薔薇の花束に視線をやると。
「お、こんなとこにいたか」
聞き慣れた声。
頭よりもまず体が反応する。
背筋がビクッとして、恐る恐る振り向くとそこには……
つなぎ姿の拓が立っていた。
「は? つなぎ?」
突っ込み所がそこじゃないことは、自分でもよく分かっている。
分かっているけれど、突っ込まずにはいられなかった。
よく見ると、お気に入りのつなぎはひどく汚れている。
赤や黄色、青に黒のペインティング。