芸術的なカレシ
「あ? メールに軽装でって書いてあったろ?」
「……」
確かに。
後日、明日香から送られてきたご案内メールには、気軽なパーティーですので軽装でお越しください、とあった。
あった、が。
つなぎで来るか?
フツー。
「だから軽装で来たのにさ、入り口で作業員と間違われて、裏口案内されて。
んで、違うっつったら、今度は不審者扱いよ?
黒い服着た、背の高い兄ちゃんと、ゴツい兄ちゃんが出てきてさ」
「……ぶっ」
「倉庫みたいなとこに連れてかれちゃって?
んで、お前に助けを求めようと電話したけど、出ねえし」
「ははっ」
「結局、新山が話つけてくれて、助かったけど」
グビグヒグビっと、拓は不機嫌にシャンパンを煽る。
シャンパングラスが恐ろしく似合わない。
「ぷはああ!
ったく、ありえねえ……」
無造作に束ねられたボサボサの長い髪。
無精髭まで生えてる。
どう見ても作業員だろう。
ありえねえのは、むしろあんただ。
「バカじゃないの?」
「……うっせーな」
「スーツくらい持ってないわけ?」
「みんな捨てただろ、学校辞めたとき」
「あ、そっか。
買えばよかったじゃん」
「は?
んなカネ、どこにあんだよ?」
「はは。
あー、給料日前だしね。
シャチョーに借りればよかったじゃん?」
「おめー、あのデカイ社長のダブルスーツ、オレが着れるわけねえだろ」
「あは、丈も合わないよね」
「ムリムリ、スネ毛丸出し。
結局不審者扱いだろ」
「ありえるね」
ごく自然に紡ぎ出される会話に驚く。
この男、何にも変わってない。
あの時から、1ミリも。