芸術的なカレシ
「お前にだけ……?」
「うるせーな。
とにかく、男連れはナシ!
神聖なオレのゲージュツを、汚らわしたくないのだ」
……意味わかんないし。
てか、一番汚らわしいのは、あんただし。
「……うん」
けれど、素直に頷いている自分が居る。
「さ、肉も食ったし、オレは帰るわ。
なんか場違いみたいだし。
じゃな」
「え? もう?」
「おー、さっき、新山には挨拶できたから。
倉庫みたいなとこでだけど」
「あー、はは」
私に背を向けて、拓は右手を大きく振り上げる。
ああ、あれ。
あの仕草。
キッチンを出る時、あいつはいつもああやって、じゃあな、また明日ーって言ってたんだ。
大きな腕をブンブン動かして、子供みたいに。
私はいつもあの背中を見送って、おー、とかはーい、とか言ってた。
……当たり前だったのにな。
あの光景が。
今ではもう。
全然当たり前じゃないのに。
そう私が物思いに耽って、拓の後ろ姿をぼんやりと追っていると。
「どうだった? 感動の再会は」
いつの間にか本日の主役が隣に立っていた。
「あ、あ、明日香!
お、おめでと!」
「ありがとう!
てか、あんたの目的は私への祝福より、あの男との再会でしょ?
危うく強制送還されるとこだったけど」
「聞いた聞いた、バカだよね」
「まあ、拓史らしいけどね……」
近くで見ると明日香のドレスは細かい刺繍にパールが散りばめてあってとても綺麗。
化粧はいつもの3倍増しで、もはや誰だか分からないくらいだけど。