芸術的なカレシ
「なにそれ」
私が手にしているチケットに目をやって、明日香が不審な顔をする。
「ん、拓にもらった。
ゲージュツのイベントのチケットだって」
「えー? あんた、まさか行くの?」
「……わかんない」
「やめときな、やめときなー。
また、ヤツのペースに巻き込まれて、あんたが悲しい思いするだけ!
せっかく嶋田とうまくいってるのに!」
うまくいってる……
「そうかなあ……」
「そうよ!」
そう言い切れる明日香が凄い。
どこに根拠があるかはわからないけれど。
「とにかくもう、拓史とは潮時なんだから。
10年なんて、長すぎるわよ」
10年。
確かに、言葉にすればとても長い月日。
なんたって私の人生の1/3なのだから。
けれど、私達の10年はあっと言う間だった。
そりゃあ、色々あったけど。
結婚だってしたいけど。
……けど。
「新しい男との未来を大事にしなさいよ。
そうした方がいいと思うわよ。
わ、た、し、は!」
真っ赤な唇でそんなに威圧されると、さすがに怯む。
あ、そだ。
真っ赤と言えば。
「あ、明日香!
これ、おめでとう!
ちょっとしたブーケで悪いけど」
「Oh! What beautiful flowers!
Thank you!」
「おめでとう、幸せになってね」
「ありがと! 幸せだよ」
明日香の笑顔はキラキラだ。
結婚には色んな形があるんだって、思わせる。