芸術的なカレシ
オンリーワン?
ざわついた夜の町を、一人駅に向かって歩く。
スマホの時計をチェックするとまだ7時半。
繁華街はこれからまた忙しくなる時間だ。
どうしよう。
まだもう少し飲みたい気はするけれど、女一人で知らないお店に入る勇気はない。
一人で入れるようなカウンターバーはだいたい高そうだし。
結婚パーティーの会費は、安月給の私にはけっこう痛かった。
なのでお財布も軽い。
人混みの波に流されるようにして駅に入る。
しょうがないや、コンビニでチューハイでも買って帰ろう。
そう思いながら歩いていると、コインロッカーの前で大荷物を抱えた、見覚えのある男の子の姿。
とっさに足元を確認する。
このくそ寒い1月の夜に、ビーサン。
間違いない。
磯辺克夫くんだ。
「カツオくん?」
「おあ! たっさんの彼女さん?」
ふり返って笑顔のカツオくん。
……いや、もう彼女じゃないけどね。
「どうしたの? すごい荷物だね」
「いやあ、画材屋ハシゴしちゃって。
買いすぎました。
あんまり重いんで、一軒目で買ったヤツはコインロッカー突っ込んだんですけど。
カギが……
見つかんな……
あっ! あったあった! ありました!」
ポケットの奥の方から、コインロッカーの鍵を捻り出す カツオくん。
ここで会ったのも何かの縁、彼に付き合ってもらおうかな。
「あ、ねえねえ、カツオくん、お腹すかない?」
「あっ、は、空いてます空いてます!
空いてます……けど、僕お金なくて」
「おごってあげるから、ファミレス付き合ってよ?」
「マジすか? いんすか?
やったー」