芸術的なカレシ
なんと言うか、拓にしろカツオくんにしろ、解釈が飛躍しすぎていて、びっくりなんですけど。
私が何気なく言った一言が、拓の人生に多大な影響を与えていて。
それが今も、現在進行形でアイツを動かしていて。
その上、私達が別れる一因にもなって。
……何だか変な話。
私の意図しない所で、大きな何かが動いてたってこと?
拓の中で。
「僕、喋りすぎましたね。
たっさん、普段は語らないことを流儀にしてますから。
今日は、おごってもらうお礼です。
たっさんに怒られちゃうんで、僕が喋ったことはナイショにして下さい」
懇願するように眉をひそめるカツオくん。
語らないことを流儀、ねえ。
見る人が見ればそう見えるのか。
拓が適当に人を煙に巻くのは、ただのめんどくさがりと見栄張りだと思うけど。
自分の裏を読まれるのが怖いのだ、プライドが高いし。
だけど、そういうところが、かわいいのだけれど。
「うん、わかった。
ありがとう」
「いえいえ、こちらこそっす!
イベント、絶対、来てくださいよ!」
カツオくんから聞いた拓の話は、ハンバーグセット899円では安すぎるくらい。
私は拓のことを完璧に理解しているようなつもりで、多分、1/3も知っていない。
けれど、それが当たり前。
他人が他人を理解するなんて到底無理。
想像力と経験値を駆使して、何となくモヤモヤした形を作ってみるだけ。
私、自惚れてたなあ、それで同じくらい、拓に対して無知だった。
そんなことを、思い知らされる。