芸術的なカレシ

色々あったけれど、おおむね幸せではあったし、10年経った今でも、拓のことを男の人として素敵だとも感じている。
もちろん、そのいとおしい気持ちは、情のようなものでもあるし、正直、セックスは年々減ってもいる。

最後にキスをしたのはいつだろう。
その時は、胸がドキドキしただろうか。
わからない。
記憶が、曖昧だ。

それでも私には、何ら不満はない。
私には拓が必要なのだ。
……多分。
呆れていることも沢山あるけれど、ある意味では尊敬だってしている。

拓が今、私のことをどう思っているのかは正直わからない。
セックスにだって、10年も一緒なら飽きているのかもしれない。
隠れて浮気をしている可能性だって0ではない。
まあ、そんなに器用な男だとは思えないけれど。


胸がざわざわとするような初々しい気持ちは、確かにもう忘れてしまった。
桃色の吐息よりは、呆れた溜め息の方が増えたのも間違いない。


それでもそれが、私と拓の、恋愛の形なのだ。
きっと。
……多分。