芸術的なカレシ
「ちゃんと言葉にすればいいって、僕に教えてくれたのは瑞季ちゃんだよ」
諭すような、けれど力強いこうくんの声。
「瑞季ちゃんがそう言ってくれたから、僕も少しずつだけど、変わっていこうって気持ちになったんだ。
どんな未来を望むにしたって、その瞬間瞬間の気持ちを大切にしないと。
……なんて、それは僕自信にも言えることなんだけど。
人のこと言えないよね」
あはは、とこうくんは笑う。
彼が茶化してくれたので、私も笑うことができる。
「本当に僕たちは、似た者同士だ」
工場で初めてこうくんに会った時に感じた、同士のような気持ち。
この人となら、分かり合えるかもしれないと思った。
「お互い、もう少しじっくり考えてみよう。
僕たちの関係も白紙に戻そう」
白紙に。
けれどもそれは悲しい別れなんかじゃなくて、お互いがお互いのためにできる最良のこと。
「ほんと言うと、僕も色々悩んでたんだ。
悩んでたからこそ、ここに来てみたかった。
おかげでスッキリしたよ。
今日は付き合ってくれてありがとう。
瑞季ちゃんの正直な気持ちが聞けて、よかったよ」
ああ、もう、この人は本当に。
底の知れない優しさを持っている。
こちらこそ本当にありがとう。
そう言って笑うと、涙が溢れそうだった。