芸術的なカレシ
日が影って風が冷たくなってきたので、私達はガーデンパレスアンジュを後にした。
夢の国。
憧れの結婚式場。
いつかまた、ここを訪れることがあるのだろうか。
その時は、今よりは少し、幸せになっているかな。
それから近くのカフェでランチをし、ボルボでマンションまで送ってもらう。
「何かあったら、気軽に連絡して!
工場のコピーが壊れた時も、もちろん」
こうくんは最後まで爽やかだ。
黒渕眼鏡も、見慣れてきたところだったのに。
もう会えないのかと思うと、くすぐったいような寂しさが込み上げてくる。
けれど、もう会うことはない、ということはないかもしれない。
彼は、私の中で兄のような存在になりつつあった。
何かに躓いたら、こうくんに聞いてもらいたいと思う時があるかもしれない。
もちろん、だからと言って簡単に甘えるわけにはいかないのだけれど。
「うん、ありがとう」
「じゃあ、元気で。
彼に、ちゃんと気持ちを伝えるんだよ」
そう言い残して、赤いボルボは私の前から去って行く。
角を曲がる前に、ハザードランプが2度点滅した。
がんばれよ、と言ってもらった気がして、私はそれに応えるように大きく手を振った。
冷たい一陣の風が吹いて、私の頬を撫でる。
微かに、雪の臭いがしたような気がした。