芸術的なカレシ
イベント当日。
私は開演時間ギリギリに、クラブガーデンの前に立っていた。
この期に及んでまだ迷っている、訳ではない。
ただ、少し、心の準備がいるのだ。
もうすぐ開演する時間だというのに、お客さんが数人、入り口の外でタバコを吸ったり雑談したりしている。
案外、客入りはいいみたい。
願掛けのつもりではないけれど、拓とお揃いで買ったダウンを着てきた。
このレザーのショルダーバッグも、しばらく封印していたもの。
それからいつものお団子頭にデニム。
普段の私だ。
拓と一緒に居た頃の、自分。
思いきってクラブガーデンの重い扉を開けた。
中に入るとすぐ、音楽が耳に飛び込んでくる。
ロック……じゃない。
よく聞くと、和太鼓。
エントランスでも、お客さんが数人集まって談話していた。
クラブガーデンには、拓とも2回ほど来たことがある。
拓が好きだったインディーズバンドのライヴと、カツオくんの友達バンドのライヴ。
だけど、その時とは客層が全然違う。
何て言うか、インテリ?
小綺麗でお洒落なお客さんが多い。
受付でチケットを渡すと二階に案内された。
どうやら二階席専用のチケットだったらしい。
薄暗い階段を上って二階へ行くと、一気に視界が開けて、ステージも一階席もよく見えた。