芸術的なカレシ
二階席は椅子が二列、30席ほどあり、あとはスタンディング。
一階席にもパイプ椅子が用意されていて、お客さんでいっぱいなのに、ここは疎らだ。
二階席は関係者だけが出入りを許されているのかもしれない。
自分が特別な扱いをしてもらったことに気が付いて、今更ながら居心地が悪い。
おどおどしながら、一番端の席に座る。
手持ち無沙汰なので受付でチケットと引き換えにもらったパンフレットを開いてみた。
白地に黒文字の印刷、至ってシンプルなパンフレット。
『Artist's Night』
出演作家は5組。
拓とカツオくんは真ん中の3組目。
「……リ、ボーン?
リ、ボーン、アールアンド、ビー?」
拓とカツオくんの作品名。
『REBORN R&B』
思わず、声に出して読み上げてみる。
アイツ、いつからR&Bなんて聴くようになったんだろう。
リボーン、てことは、生まれ変わるってこと?
R&Bの生まれ変わり?
なんのこっちゃ。
「ミズキさん、ですよね?」
私が一人でパンフレットに突っ込みを入れていると、背後からか細い声に呼び掛けられた。
「げ……」
振り返ると、見覚えのある、というか忘れるはずなど絶対にない女の顔。
小さな顔に、赤い大きな花のイヤリング。
襟の大きな、黒いワンピースを着ている。
華奢な手をハラハラと振って近付いて来るのは……
「やっぱり!
覚えてますか? 紅です」
にっくき紅!!