芸術的なカレシ
「新山が結婚?
そりゃあ、世も末だな」
母親特製の豚のしょうが焼きを頬張りながら、拓はけれど、愉快そうだった。
「しかも、相手はゲイよ。
まあ、明日香らしいけど」
てんこもりキャベツの千切りを箸で崩しながら私が言うと、
「結婚できるだけいいじゃない」
と、目の前の母親がアッサリと地雷を踏む。
夕方、いつものように拓は我が家の食卓に居た。
拓は風呂なしボロアパートに独り暮らしで、週に5日は湯水と食事を拝借にこのマンションを訪れる。
彼女の私でさえ、拓のアパートへはほとんど出入りしない。
『アトリエ』というカッコいい名の付いた、大きな物置だ。
「拓史くん、もうそろそろ、うちの子になりなさいよ。
婿養子も、今時珍しくないわよ?」
「ああ、それもいいっすねー」
「おばさん、早く孫の顔が見たいわー」
「まだ、ばあちゃんは早いんじゃないっすか?
フミエさん、綺麗だし、若いっすから」
「あら、そう?
拓史くんは上手ねえ。しょうが焼き、まだあるわよ」
「やったー! いたーきっす」
「……」
私の結婚には協力的な母親。
しかし彼女の一撃をサラリとかわす拓は強者だ。
お世辞も忘れない。
何か裏があるのか。
それとも単純に何も考えていないのか。
もはや定かではない。