芸術的なカレシ
拓の芸術なんて、絶対理解できないと思っていた。
アイツはいつも自由で、予測不能で。
好きなことばっかやって、奔放で。
だけど今、私はアイツの中に溶け込んでいる。
思考ではなくて、感覚で。
拓の、芸術とかいう訳の分からない枠の中に。
ごく自然に。
ステージの上の拓は、私の知っている拓そのもので。
バカじゃね?と言って笑う拓で。
別れ際に手を振る拓で。
ソファーを赤く塗っちゃう拓で。
キラキラしていて、眩しくて。
かっこよくて。
とにかくかっこよくて。
私の、大好きでたまらない、自称芸術家の拓。
いつの間にか、音楽が止んだ。
二人の手も止まった。
生まれ変わった赤と黒は、ステージの上でキラキラと輝いている。
意味は分からない。
説明もない。
形もあやふやだ。
何かハッキリとしたものが見えるわけではない。
だから何? と言う人もいるだろう。
拡散された色彩。
一度塗り潰されて、消されてしまった形。
けれど私達の自由な感覚で、私達の手によって、いつでも何度でも、それは生まれ変わることができるんだって。
あの赤と黒の中には、そういうメッセージを感じることができる。
REBORN、ただそれだけで。
世界は素晴らしいんだって。
拍手が沸き起こった。
一階では、スタンディングオベーションしている人もいる。
「……ふう」
私はどうも、後半、息をするのを忘れてしまっていたらしい。
大きく深呼吸をして、呼吸を整える。
「どうでした?
すごかったでしょう?」
紅の声?
ああ、そう言えば、紅が隣に居たんだった。
すっかり忘れてた。