芸術的なカレシ
「クリスマスに映画に誘ったら、タクシさん、アクションじゃなきゃ観ない!とか言うんですよ?
わたしは、ラブストーリーが観たかったのに」
……ああ、アクションね。
そう、アクション。
「ミズキさん、よくタクシさんと10年も付き合ってましたね。
ほんと、すごいです」
「はは……」
笑うしかないんですけど。
「あ、ヤスユキさんだ!
じゃあ、わたし、下行きますね。
ミズキさん、またお会いしましょう」
さっきの音楽パフォーマーを一階で見つけたらしく、黒いワンピースを翻してそそくさと私の前から消えていく紅。
「え?」
ちょっと、ちょっと。
待ってよ?
もっと、ちゃんと、説明して?
紅が去って行った暗がりをぼんやりと見詰めてから、私は慌ててもう一度パンフレットを見直してみる。
『REBORN R&B』
その下に、ごく小さな文字で『music by BENI』とある。
「え?」
頭がこんがらがってきた。
恋敵だと思っていた紅。
拓の新しい彼女だと思い込んでいた紅。
彼女もまたイベント参加者の一人で。
拓と一緒に仕事をしてたってこと?
キスをしたら出入り禁止になったって?
キスって、あの夜のキス?
破廉恥って……
「ぶっ……オヤジくさ」
アイツらしくて笑えてくる。