芸術的なカレシ
ああ、世の中ってば何てうまくできているんでしょう。
あ、違うか。
うまくできていないのか。
「お前は?
あの眼鏡のカレシは?」
「……あー、うん。
もう、カレシじゃないし」
「あ、違うんだ?」
「うん、もう、違う」
「もう、ねえ」
そう。
あんたに会いたくて、別れてきた。
拓ともう一度、ちゃんと向き合いたくて、別れてきたんだよ。
まだ好きだから。
未練タラタラだから。
もちろんそんなこと、言えないけど。
「フラれたんか?」
「……ん、そんなようなもん」
フラれた。
うん、そうだね。
別れを切り出してきたのは、一応、こうくんの方だし。
「かっわいそうに」
そう言ってから、けけけっと笑う。
憎たらしい。
全然そんなこと、思ってないくせに。
「オレが慰めてやるか?」
「……は?」
「オレが、慰めてやる」
「……」
聞き間違いだろうか。
オレが慰めてやる?
それって。
え?
チュッ
呆気にとられていると、唇に。
微かに温かく湿った感触。
「え?」
「嫌か?」
「……は」
嫌な訳がない。
嬉しくて嬉しくて。
失神しそう。