芸術的なカレシ
「今日さ、これからソファー見に行こうぜ。
市役所の近くに、新しい、デッケー家具屋できたろ?」
「え、知らない」
「なんかさ、けっこう色々あるって。
カツオが言ってた」
「そうなんだ。いいね、行こうか」
私もいつものスタイルに着替える。
ネルシャツに、擦り切れそうなデニムのスカート、リブタイツ。
そして鏡の前で、頭のてっぺんにお団子をくくる。
「で、ついでにさ」
耳に心地いい拓の声。
この声を聞きながら、私は何度こうしてお団子頭を作っただろう。
いつもの朝。
いつもの週末。
いつもの二人。
このままずっと、こうしていられたら。
結婚になんて拘らなくてもいい。
私達が私達らしく。
私達でいられたのなら、それで。
「市役所寄って婚姻届でも貰ってくるか?」
目を細めて、いたずらっ子のように笑う。
ああ、また。
適当なことを言って私を試してる。
婚姻届、だって。
あはは。
新しい冗談?
本気になんて、なるもんですか。
「あはは、いいね、それ」
「だろ?」
永遠なんてない。
私達は、瞬間瞬間の積み重ねで生きている。
だからこそ大切にしなきゃ。
自分のこと。
彼のこと。
二人のこと。
「とにかく早くコーヒー飲もうぜ」
私を振り返って急かす、自由奔放な彼。
さっさと私に、背中を向ける。
絵の具で汚れたつなぎ。
「待ってよ!」
待ってはくれない。
いつも私の先を行く。
憎たらしくて、大好きな。
私の。
芸術的なカレシ。
「芸術的なカレシ」……end