芸術的なカレシ
カツオくん、とは、拓の芸術家仲間。
磯部克夫(いそべかつお)という、奇跡的な名前を持っている。
同じ看板屋でバイトしている美大生で、年は私達より5つも若い。
5浪してやっと美大へ入ったという、これまた拓にも負けず劣らずの強者だ。
彼のおかげで(せいで)拓は芸術とやらに目覚めた。
大学時代はサッカー選手になると言い、暇さえあればグラウンドで球を蹴っていた拓が、年齢的にも体力的にも挫折を味わい、元々夢だった高校教師になって、5年。
生徒からは絶大なる人気を誇っていた拓だけれど、同じ教員からネットでの誹謗中傷など卑劣ないじめに遭い、あーだこーだと揉めながら、ぐちゃぐちゃになって教員を辞めた。
両親だけでなく、祖父や祖母まで教員一家だった拓は、我慢が足りないなどと家からも追い出され、我が家に居候している間に近所の看板屋でバイトを始めた。
そこで出会ったのが、この、カツオくん。
決して、好青年とは言えない見てくれ。
頭はドレッド。
レゲエカラーのTシャツに、ナチュラルダメージ(と私は呼んでいる、本物のダメージ)のジーンズ。
冬でも、素足にビーサン。
彼に初めて会った人は、日本語が通じるのかと、まず不安になる。