芸術的なカレシ
フィーフォン、フィーフォン
ダイニングテーブルの上に置きっぱなしだった拓のスマホが音を立てて、たまたま近くにいた私はそれを覗き込んだ。
本当に、たまたま、だ。
イライラが募っていたとはいえ、面倒事が嫌いな私は極力争い事を避ける。
彼氏のスマホを覗き込むなんて。
いつもなら、そんなことはしない。
彼氏の携帯やスマホをチェックして、いいことがあったなんて話は聞いたことがない。
大体が浮気の発覚とか、浮気の発覚とか、浮気の発覚とか。
けれどまさか、拓に限ってそれは。
心のどこかで私は、拓を信用しきっているのだ。
けれど、音を立てたスマホは、何やら怪しいメッセージを示している。
べに<「昨日はありがとう!
とっても楽しかったです
また……」
スマホの待受画面に表示されるライン画面。
べに?
べにって、誰?
昨日?
昨日ってなに?
「また……」の先がラインアプリを起動しないと読めない。
アプリを開けば概読表示されてしまって、私の覗き見が拓にバレてしまうだろう。
べに……
変わった名前だけど、女の子の名前に違いない。
昨日はありがとう?
昨日、その子と会ってたのかな。
うちには夕方、立ち寄っただけなのに?
何事もない顔して、いただきますーごちそうさまーと、おでんを平らげて行ったのに?
楽しかったって、何が?
何が楽しかったの?
様々な憶測が、私の中からじわじわと滲み出す。