芸術的なカレシ
「今日、泊まってい?」
そう言ってちょっと恥ずかしそうな、いつもの人懐っこい拓。
ああ、そう。
たまには彼女でも抱きたくなったか。
私の思考回路はもはや大曲で、くねくね、ひねくれて止まらない。
嫌な気持ちがもやもやと渦を巻いて、私をどんどん連れて行ってしまう。
顔には出さないけれど。
「今日はだめ。生理」
いけしゃあしゃあと嘘をつく。
あれ? こないだきてなかったっけー、と拓はブツブツ言いながらまたスマホ。
こんな気持ちのままで、拓とエッチなんかしたくない。
この間したのは、多分もう2ヶ月くらい前の事だ。
いつも拓の都合で、私達の関係は動いている。
私に与えられた権利は、小さな嘘をついて意にそぐわないことを避けることくらいだ。
いつからだろう、私達がこんな風になってしまったのは。
拓が教師をしていた頃は、多分もっと違っていた。
生活のリズムもパターンも、私のそれと合っていたし。
お互いに、色々気遣いもあった。
精神的に参っていた時期もあったけど、だからこそお互いを理解しようと努力していたし、無理をしてでも優しくすることができた。
けれど、今はどうだろう。
芸術家になった拓は自由だ。
何にも縛られてない。
(ように私には見える)
まだ自由気ままな学生であるカツオくんの影響もあるだろう。
それにしたって拓は、私の知らない芸術家の拓に、すっかり変わってしまった。