芸術的なカレシ
「そんなら明日の朝、また来るわ」
ビールを飲み終わるとすぐに、パーカーのフードを被って拓は出て行った。
いつもと同じなのに、その足で「べに」の所へ行くのではないかとつまらない想像までしてしまう。
例えそうだとしても、私に拓を咎めることができるだろうか。
わからない。
じゃあね、とだけ言ってドアを閉める。
溜め息を一つ吐き、自分の部屋へ入ると、使えなくなった真っ赤なソファーが目に入る。
芸術のせいで、私達もこんな風になってしまうのではないのだろうか。
一度は燃え上がった赤い炎も、10年もたてば終息してしまう。
煩わしい赤い粉がまとわりつくだけで、使い物にならなくなる。
誰にも座ってもらえない。
捨てるしかないのかな。
悲しくなってくる。
べにって誰?
昨日会ってたの?
何をしていたの?
これから会うの?
誰にも聞けない。
私達これからどうなるの?
どうするの?
結婚、しないの?
口には出せない問いが、溜め息になってこぼれ落ちる。
他には何も、残らない。