芸術的なカレシ
筆?
次の日、土曜日。
拓は相変わらず朝は早くて、昨夜モヤモヤのまま眠れなかった私は、拓に叩き起こされる羽目になった。
まったく、人の気もしらないで、昼は何食おうかー、とか、映画でも観るかー、やっぱりちょっと画材見に行きたいなーとか言ってる。
なんか、浮き浮きしていてイライラするな。
卑屈になっている自分も嫌だけど、こんな気持ちなのは拓のせいっていうか「べに」のせいなのだ。
「たまにはオシャレしろよ」
そう言う拓だって、一張羅の黒いニットにブカブカのデニム。
伸ばし放題の髪は、後ろで一つに纏められている。
けれど、悔しいかな、拓はこのラフさが様になる。
かっこいい、のだ。
「あんたに言われたくないし」
「いいけどね、別にオレは」
別にいいなら言わなくてもいいんじゃないですか?
何を今さら。
こっちは誰かさんのせいで寝不足なんだ。
私は不機嫌にドレッサー(のように仕立てた100均の鏡)の前に座って化粧を始める。
服はいつものネルシャツにデニムのスカート、リブ素材のレギンス。
そしておだんご。
もはやおだんご頭は私のトレードマークだ。
何が悪い。
スカートをはいているだけいいじゃないか。
ああ、ファンデーションもうまくのらない。
アイラインもカスカスになる。
鏡で見る自分の顔。
頬には赤みもないし、張りもない。
年だなあ。
そう思うと悲しくて泣きそうだ。
「べに」は若いんだろうか。
また、そんなことを考える。