芸術的なカレシ
「お、カツオ!」
「あっ、たっさん!」
しゃがみ込んで筆を見比べている、見慣れたドレッド頭に、拓が驚く。
「カツオくん?」
「わっ、彼女さんもいる!」
私を見上げるあまりいい男とは言えない顔は、間違いなく磯部克夫くんだ。
「久しぶりー、いつも拓がお世話になってますー」
「いやむしろ、僕がお世話になってますよー」
ペコペコとカツオくんは頭を下げる。
晴れているとはいえ寒いのに、カツオくんはやっぱり素足にビーサンだ。
筆を買うのをやめて、靴を買えばいいと思うのだけど。
カツオくんの両手には、大量の筆が握られている。
「あー、筆、オレもほしい」
「僕、筆すぐダメにしちゃうんすよー」
「わかるわかるーオレもオレもー」
大の男が二人、しゃがみ込んで筆を眺めている。
なんだかなあ。
ちょっといただけない光景なんですけど。
「あ、たっさん、べにも来てますよ?
会いました?」
そう言ったカツオくんの台詞に、私の心臓がビクンと反応する。
べに?
忘れたくて忘れられない名前が、私の鼓動を早くする。
「うんにゃ、会ってない」
「あ、ほら、噂をすればー」
のほほんとした二人のやり取りとは逆に、カッカッと熱くなる私の体。
「べに」が、「べに」がここに来てるの?