芸術的なカレシ
「そりゃあ残念だねー」
のほほん、とカツオくん。
「でも、わたし、頑張っちゃおうっかな」
ニコニコしながら私を見る紅の目は、奥の方に意地悪な炎がメラメラと燃えている。
頑張っちゃおうっかなって。
初対面の人に向かって宣戦布告?
てか、この人になら勝てる気がする的な?
「おー、頑張れ頑張れ
はははっ」
はははって……
相手にしてるんだかしていないんだか。
隣から拓の表情を窺っても、考えていることが読めない。
こんな可愛い子に、ねらってたとか言われて?
頑張っちゃおうっかな、とか言われて?
いい気になって?
調子に乗ってる?
ああ、ムカつく!
「ははは……」
とか言って、私も笑って誤魔化すしかない。
「あっ、本気ですよう?
瑞季さん、覚悟してくださいね」
「……あー、はい」
なんなんだろうなあ。
若いって凄いなあ。
ああ、美味しいはずのコーヒーが不味い。
それからは世間話で何となく時間が過ぎた。
拓とカツオん、それからカツオくんと同じ大学で油絵を勉強しているらしい紅の3人は各々の芸術論に花を咲かせ、私は一人、専ら人間観察か、脳内空中浮遊だ。
時々、紅の視線がチクリと刺さる。
その視線に目を合わせないようにしながら、拓のこと、案外本気なのかもなーと、ぼんやりと思った。