芸術的なカレシ






カフェで、カツオくんと紅とは別れた。

最後まで紅の視線は突き刺さるほど痛くて、なんだかなあ、と溜め息が出てしまう。
拓は相変わらず上機嫌で、鼻歌なんか歌ってるし。
これからどうなるんだろう。
紅はどこまで本気なんだろう。

私が一人でモヤモヤしているにも関わらず、

「オレ、ちょっと、アトリエ寄るわー
また後で、お前んち、行くから」

と、拓は私を置いて帰ってしまった。


映画観るんじゃなかったの?
やっぱり気が変わったの?
私とのデートより芸術の方が大事なの?

黙って拓の背中を見送りながら、押し込めていた不満が爆発しそうになる。

ゆらゆら揺れる背中。
束ねられた後ろ髪。
前後する逞しい腕。

あの腕に抱かれたのはいつ?
好きだって言ってもらったのは、もういつのこと?


『頑張れ』
そう言った、紅への何気ない一言。

頑張れば、どうにかなっちゃう可能性だってあるってこと?
いつか紅の方を選ぶ時が来ることを、否定できないって、そういうこと?


……まさか、まさかだけど。
今からこっそり、紅と会うんじゃないよね?
私に気付かれないように、やりとりしてた?

私の脳裏にはゾッとするような考えが浮かんできて、それを振り払うように大きく頭を振る。
いくら何でも、そんなことはない。
ない、と思う。

けれどその根拠は?




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