芸術的なカレシ
「だからって、そのまんま、なわけ?」
スマホ越しの明日香の声には、いつも以上の凄味があった。
拓が家に来て、ご飯を食べた後、なんやかんやいつものごとく風呂にも入って、じゃあおばさん、また来るわーと言って帰ってしまってから、私は明日香に愚痴を聞いてもらうために電話をかけた。
私は拓の顔も見ていない。
鼻唄はバッチリ聞こえてきたけれど。
風邪だって? 大丈夫かーと、ドア越しに声がしたけど当然無視したし。
明日香は例のイケメンフレディと食事中だったにも関わらず、私のために時間を割いてくれた。
「だって……今、拓の顔見たら 、メチャクチャ、言っちゃいそうだし」
「そんなの、言っちゃえばいいのよ。
その若いオンナと、やったの?って、聞いちゃいなさいよ」
やったの?って?
「それは無理……」
「まあ、そんな可愛い子と二人きりじゃあ、さすがの拓史くんもやっちゃったわなー」
やっちゃったわなあって……
もしかして、面白がってる?
愚痴を聞いてもらう相手、間違えたかな。
私は明日香に聞こえないように、小さな溜め息を吐く。
「まあとにかく、今週末は、みんなで食事に行くわよ!
フレディを紹介するから。
私達に触発されて、拓史だって結婚したくなるかもしれないし。
それまでにハッキリさせておきないよ!
わかった?」
拓がゲイに触発されて結婚したくなるとか根拠がよくわからないけど。
明日香は明日香なりに私達を何とかしてくれようとしてるのかな。
多分。
てか、ハッキリさせておくって、何をだろう。
紅とのことか。
私とのことか。
それとも両方か。