芸術的なカレシ





ダイニングテーブルに着いて、コーヒーを啜りながら新聞を広げる拓が視界に入る。
お客さん用だったノリタケのカップは、すでに拓専用と化していた。

まったく違和感のない佇まい。
……家族かっつうの。



「あ、そうそ。お母さん、今日、早出だから。
お味噌汁、あっためて、あとは適当に、食べてちょうだい」


キッチンを出ながら、いそいそとエプロンを外す母。


「え?」


「ズズズズ……」


目が点になっている私をよそに、母親はさっさと身支度をし、拓は呑気にコーヒーを啜る。

いやいやいやいや。
早出って。
週末は学生のアルバイトに任せてるから、いつもそんなことないじゃん。
てか、化粧もしてないし!

そんな私の心の突っ込みに気が付いたのか、母は化粧品でパンパンのバニティーポーチを抱えて去って行く。



「じゃあねー、拓史くん、ごゆっくり」


「はーい、いつもすんません。
フミエさん、気を付けてー」



いやいやいやいや。
ごゆっくりは勘弁!
気を利かせたつもりなのかもしれないけど、迷惑だから!

はああ……
母親の存在でなあなあにしようとしていた私の決着。
思わず二人きりになってしまって、ギクシャクする。

とりあえず、朝食の準備でもするか。
食べながら話せば、少しは間が持つだろう。






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