芸術的なカレシ






「お前さあ、最近、なに拗ねてんの?
オレが忙しいから?」


私がキッチンでゴソゴソしていると、新聞からひょっこり顔を出して、そんなことを言い出す拓。

ああ、憎たらしい。
そんな可愛い理由で、私があんたを避けてるとでも思ってるのか。
目出度いやつだ。



「……違うわよ」


「じゃあ何?」



問われても答えようがない。

スマホ見ちゃったって言う?
後をつけたこと話す?
アパートに紅が入って行くのを見たって?

いやいやいやいや。
言えるわけない。



「別に、避けてないよ」


「……あ、そう、ならいいけど。
連絡事はちゃんと伝えろよ?
今日はオレ、ホントは約束あったけど。
お前らとの約束、優先すっから。
ありがたく思え」


「は?」


ありがたく思え? だと?

いつもなら、聞き流せたかもしれない。
こういう上から目線の発言は、今日に始まったことじゃないし。
拓の冗談だって、分かってる。

けど、今日に限っては違う。

だって、約束なんて紅とに決まってるし。
本当は私だって行きたくない。
拓の顔なんか見ていたくない。

なのにありがたく思え? だと?
ちょっと調子に乗ってるんじゃない?
若い女の子と彼女、天秤にかけて。


「行きたくないなら行かなくていいよ。
そっちとの約束優先させれば?」


そう。
私にそんな言い方するなら、紅と仲良くしてればいい。


チチチチチッと間抜けな音を立てて、私はガスコンロに火をつける。














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