芸術的なカレシ
「ああ、そうか。
わかったよ。
オレとじゃあ、未来が見えねえって、そうゆうことだな」
パチン、と、テーブルの上にさっきまで拓に読まれていた新聞が叩き付けられる。
「そうは言ってないけど」
「じゃあ何?
何が気に入らねえの?」
未来が見えない訳じゃない。
私が見ている未来と拓が見ているそれとが、一致してるのかって、そういうこと。
けれどよくわからない怒りで胸が熱くて、喉が詰まって、上手く説明できない。
口を開けばまた、思ってもないことを口にしてしまいそうだ。
「気に入らないのは、あんたの方でしょ?」
お互いを、お互いのせいにしている。
私が気に入らないのは紅のこと。
けれど、そんなこと、正直に言ったらバカみたいじゃない?
30にもなって、焼きもちだなんて、みっともない。
拓と一緒にいたいよ。
結婚したいよ。
したいけど、私の口からそんなこと、言える?
「はあ?
オレのせいかよ」
私に何かが足りなかったから、紅に惹かれたんでしょう?
私と居るよりも、紅と逢い引きしたかったんでしょう?
紅の蛍光色のイヤリングが、私の記憶の中でチカチカしている。
赤い自転車も。
私を感情的にする。