芸術的なカレシ

「本当なら今頃ここで、あんた達を結婚に導く予定だったのになあ。
私とフレディのラブラブぶりを見せつけてさ」



ラブラブぶりって……
男好きの二人が？

私の疑問を察したように、明日香はクスリと鼻で笑う。



「私達、人間同士としてすごく深く愛し合ってるの。
結婚ってそういうことよ。
人生のpartnerなんだから。
好いた惚れただけじゃダメなの。
その点あんた達は、そろそろ結婚するにはいい時期だと思ってたのに」


いい時期？
10年目にしてやっとですか。
私達の愛とやらは、どんだけ未熟だったんだろう。



「けど、もう別れちゃったんなら、しょうがないわね。
瑞季、本当に見合いでもしてみれば？」



見合い？ まさか。
今はまだ、拓以外の誰かと結婚なんて、とても考えられない。

なのになんで、お見合いも考えてるなんて、言っちゃったんだろう。
今更悔やんだところで、一度口をついて出てしまった言葉は、もう取り戻せないのだけれど。



「他人事だと思って……
第一、まだ、別れた訳じゃないかもしれないし」



「ええ？
だって、もう来ないって言われちゃったんでしょ？
それって、別れた以外に何なのよ」


大袈裟に目を丸くする明日香。
それから手際よく、通りかかったボーイにワインのお代わりを注文する。


別れた？
私達が？

果たして、本当にそうなんだろうか。
長かった、長すぎた月日。
楽しみも悲しみも悔しさも憎らしさも、重ねに重ねてきた10年間。

なのに、あんなに呆気ない幕切れなの？
唐突すぎて涙も出ないんですけど。