芸術的なカレシ






ぼんやりと、視界が歪んできたような気がするけれど、風が冷たいからということにしよう。


駅へ向かう街のネオンが、虹色に円を描いて散り散りになって行く。
雑踏が近かったり遠かったり。
誰かが笑っていたり、どこいこっかーって、言ってたり。
あり得ないわーって怒ってたり、ひどいと思わない?って、悲しんでたり。
私には関係のない言葉が、どんどん耳を通り過ぎて行く。

そうして私のスマホはまだ、沈黙を守ったままだ。
いつもは全く気にしていないスマホの存在。
昔から友達には、あまりに捕まらないから、携帯持ってる意味がないってよく言われてた。
なのに。
拓が居ないというだけで、こんなに気になるなんて。
拓からの連絡を期待している自分を、ひしと思い知らされる。

そんなに気になるなら、自分から電話してみればいいのに。
明日香ならそう言って、軽く笑うだろう。
けれど私は、それができない。


駅に入って電車に乗る。
グウン、と音がして、電車が走る。

さっき上から見ていた夜景の一粒一粒が、こんなに近くなったのに、私には全然関係のない温もり。

もう、なんなら、今すぐにここででも。
誰かに、めちゃくちゃに抱いてもらいたい。
あんなことやこんなことになって。
もう、ダメダメダメー!!って、叫んじゃうくらい。


ううん、誰かにじゃないんだ。
拓に。
拓に抱いてもらいたい。
あの時みたいに。
そしてあの時みたいに。

拓の腕に。
拓の胸に。

拓の肌全部。
大好きで大好きなんだ。
忘れかけていたけれど。





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