芸術的なカレシ
見間違い?





拓の温もりを思い出してたら、下腹部が悶々としてきた。
降りる駅に近付くにつれて、空いてきた23時台の電車座席。
左右に腰を揺らして思わず不審な動きになる。
電車の中で30女が一人。
スケベなこと考えて体を熱くしてるとかやばいな、昼ドラですらそんなシチュエーションないわ、と自分に突っ込みを入れてみる。

これはもう、拓に何とかしてもらうしかない。
そうだな。
それをきっかけに、仲直りしてしまえばいい。

よし。
一つ前の駅、拓のアパートのある駅で降りよう。
アパートの部屋の前に着いたら、ピンポーンとチャイムを鳴らす。
拓が、はーい、と出てくる。
あいつのことだから、除き穴から確認するなんてことはないだろう。
わあ!瑞季!?
と、拓が驚く。
そこで、熱烈なキスをお見舞いしてやるのだ。
そしてそのままベッドになだれ込んで。
こっちから襲っちゃうもんね。
ふはっはっは。

酔いも手伝って、私の思考回路は完全にヤバい方向だった。
けれど、構うものか。
こんな寂しさを、一人で抱えるなんて私にはまだ無理だ。
結婚なんかしなくたっていい。
私はやっぱり、拓が居てくれなきゃダメなのだから。
紅とのことはもう、水に流してしまえばいい。










< 57 / 175 >

この作品をシェア

pagetop