芸術的なカレシ
「このソファー、色、剥げてたじゃん?
赤にしちゃおうかって、思い立っちゃってさあ、オレ」
「……」
「お前の部屋、地味じゃん?
赤が映えるわー」
ソファーに刷毛を走らせる拓は、憎たらしいくらいに爽やかな笑顔だ。
いやいやいや。
私の部屋が地味なのは、というか、木の色や土の色や、白や黒で統一しているのは、決してその赤を映えさせるためではなく、私が心を落ち着かせて生活するためであって……
「意味わかんない……」
「意味? 意味なんかねぇよ」
「そういう意味じゃなくて……」
「じゃ、どういう意味?」
あああ、朝から面倒くさい。
というか、疲れる。
寝起きに言葉遊びなんかしたくない。
「もういい……もう少し寝る」
拓の奇行にはもう慣れてる。
怒る気にもなれない。
そのうち、壁も一面塗られてしまうだろう。
今度はグリーンか?
ピンクだけは勘弁してほしい。
「はいよ、おやすみ」
頭まで布団を被った私に、拓の気のない返事が返ってくる。
せっかくいい夢見てたのに。
せっかくプロポーズされてたのに。