芸術的なカレシ





熱いお茶をいれて母と二人、テーブルで向かい合う。

ふにゃふにゃのところと、パリパリのところがある、冷めかかったたい焼き。
パクリと一口頬張ると、あんこの優しい甘さが段々に身体に染みていく。
同時にほんの少しだけ、気持ちがいい方向へ動いた。



「あら、けっこう美味しいじゃない。
お店の近くにね、新しくできたたい焼きやさんがあるのよ。
冷めちゃったのが残念ね」



母は、まるで何でもないように私に話しかけてくれる。
目の前の娘は、どう見ても何でもないはずはないのに。
目は腫れているし。
鼻は真っ赤だし。
頬はカサカサだし。
それに。
あんなに毎日来ていた恋人が、ピタリと来なくなっているのだから。



「ああ、そうそう、瑞季ね。
よかったら、お見合いしてみない?」


たい焼き食べない?と同じノリで、突然母親がそんなことを言うので、私は言われていることの意味を理解するのに、数秒かかった。

は?
お見合い?



「……は?」


「さっき、ユリエさんとスーパーで会ったの。
あなたのこと、心配したわよ。
母さんね、気にしないで、あの子彼氏と別れたみたいで落ち込んでてって、話したらね。
いい人がいるから、会ってみないかって」


たい焼きをパクつきながら、顔色ひとつ変えず飛んでもないこと言っている目の前の母。

ユリエさん、とは、社長の奥さんのことで。
その奥さんとスーパーで会って?
心配してたから?
彼氏と別れたみたいで……って。

いやいやいやいや。
ちょっと待って待って。


「 はあ?」


娘の個人情報、バラしすぎだと思うのだけど。







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