芸術的なカレシ
「あら、大丈夫よ。
ユリエさん、お節介だけど口は固いし、男の人、見る目あるから。
任せておけば、いい人紹介してくれるわよ」
口が固いとか見る目があるとか。
もはやそういう問題ではなく。
「それともまだ、拓史くんがいいの?」
ゴクン、とお茶を飲んでから、母は私に鋭い一瞥をくれる。
もう諦めなさいよ、とでも、言わんばかりに。
「……いや……」
何か言わなきゃ、と思うのだけれど、言葉が出てこない。
この間から、私の頭は言葉を忘れてしまったのだろうか。
「まあ、そうね。
お見合いするしないも、あなたが決めることだし。
拓史くんを想い続けるのも悪くはないけど。
……けど、これだけは言わせて」
コトン、と、静かに母は湯飲みを置く。
「瑞季、女には、賞味期限があるんだからね」
それからピシャリとそう言ってのけた。
彼氏と別れたばかりの30娘に、女の賞味期限を語る母親ってどうなの。
衝撃で声も出ないのだけど。
「母さんはいいと思うなあ、お見合い。
新しい出会いは、きっと瑞季を成長させてくれると思うわよ。
よく考えてみて。
いつまでも若くはないんだから」
やんわりとした、いつもの母の口調に戻る。
諭すように、丁寧に。
「どっちにしても、母さんは瑞季のこと、応援するから。
アクション、起こしてみたらどうかな」
……アクション。
アクションかあ。
いつまでも、こんなことしていられないのはよく分かってる。
母の言う通り、女には賞味期限があるのかもしれないし。
そうじゃないにしても、拓との思い出にすがって生きるのは、自分でもみっともないって、そう思うし。
「でも……」
まだ整理がつかない。