芸術的なカレシ
「だから、あなたの気持ちも、少しは分かるつもり。
拓史くんと何があったのかはわからないけど……
母さんには、あんたが拓史くんのために身を引いたんじゃないかって、そう思えてね」
身を引いたなんて、そんな格好のいいものじゃない。
私にあったのはつまらない意地とプライド。
母さんとは違う。
「……そんなんじゃないよ、私は……」
自分が情けなくなって、また涙が滲んでくる。
「……そうね。
もちろん母さんにも、意地があったわ。
父さんはいつも、研究が最優先だったし。
母さんは2番目。
このままずっと、私は研究の次なのかと思うと、寂しかったというのも、本音。
あなたを一人で育てる自信はあったけれど、それも今思えば、意地を張ってただけだったのかもしれない」
……意地。
女にはそれが付き物なのだ。
けれどもやっぱり、私のそれと母のそれとは大きく違う気がする。
「瑞季さえよければ、結婚なんか、しなくてもいいわ。
けど、女に生まれたからには、瑞季にも子供は産んでほしいな。
子供って、すごくいいわよ。
もちろん、誰の子でもいいってわけにはいかないだろうけど」