芸術的なカレシ
「分かりました、考えてみます」
私がお見合い写真をユリエさんに渡すと、これは持ってていいわよ、と返された。
持ってていいと言われても……ちょっと困る。
「フミエさんの意見も聞いてみたらどうかしら?」
ああ、そういうことか。
けれど、外見だけで母親にどうこう言われるのも嫌だなあ。
私はホットコーヒーを啜りながら、もう一度そのキラキラした表紙を眺めてみる。
結婚したらきっと、真っ白なドレスに身を包んで、こんな風に写真を撮ったりするんだ。
例えばこの人と。
嶋田光樹くん、35才。
「それはそうと、瑞季ちゃん、もう、少しは元気になった?」
くるくるくるっと、ストローを少女のように回して、 ユリエさんは何か言いたげだ。
言いたげ、といよりは聞きたげなのだろう。
口は固いと言っても、噂話が大好物な人なのだ。
正直、私はあまり信用していない。
母の友人にしては珍しく、見た目も生活も派手な人だし。
「あ、はい。ご心配おかけしました。
もう大丈夫です」
どちらかと言えばまだ全然大丈夫ではないけれど、こう言って流しておくのが無難だ。
面白おかしく誇張されても、不愉快なだけだし。
「そう、よかったわ。
あなたはうちでも、唯一の女子社員だから。
笑っていてもらうと、工場も明るくなる」
何かあったら遠慮なく言ってね、とユリエさんは付け足したが、私がユリエさんに何か相談を持ち掛けるのは考えにくいな、と思った。
悪い人じゃないけど、やっぱりちょっと、面倒臭い。