芸術的なカレシ






返事は数日待たせてもらうことにして、その日は嶋田さんのお見合い写真を持って帰った。
すでにユリエさんから情報が行き届いている母は興味津々で、芸能人の誰それに似てるとか、いや、アナウンサーの誰それさんだ、とか、勝手なことばかり言っている。



「いい人そうよねえ、子供も好きそうだし。
やっぱりお酒は飲まなそうね。
缶ビール1本でダウンだわ、きっと」



母も私と同じようなことを考えているので、思わず笑ってしまう。

人は見かけではない、とは言うけれど、案外見かけだったりする。
その人の生活パターンは顔や身体に出やすいし、性格だって表情に表れる。
纏っている雰囲気は、必ずしも内側から滲み出てくるものだし、行動はさらにそれを示すのだから。
人ってけっこう、自分の癖を見た目に沢山持っているものなのだ。




「母さんは合格点だと思うけどなあ。
まあ、見た目に華はないけど。
あとは会ってみないとね」



「会ったことはあるのよ、多分。
あんまり記憶にないんだけど」



「会ったことあるの?
記憶にないくらいなら、嫌な感じではなかったのね。
なら、いいじゃない」




母親はビールを煽って上機嫌だ。
私もまたビールを片手に、マグロの刺身を食べている。


ならいいじゃないって。
他人事だと思って。
けれど確かに、印象は悪くなかった気がする。
ただ何と言っても、今までの私は、拓以外の男に全く興味がなかったのだ。
例え印象が悪かったのだとしても、すぐに忘れてしまったというだけのことかもしれない。












< 76 / 175 >

この作品をシェア

pagetop