芸術的なカレシ
ソファーにしろ、コーヒーにしろ。
拓はそうやって、何かを自分の色に染めていくのが得意なのだ。
芸術家になる、と拓が言い出したのも、どこか納得がいくことでもある。
こうと決めたら我が道を行く強さと、いざとなればキッパリと方向転換する柔軟さと。
すさまじい人懐っこさを兼ね備えている。
「おい、瑞季、起きろよ。
まったく、引き際を知らねえな、お前は」
「……」
夢のプロポーズが名残惜しく、いつまでも布団に潜る私。
引き際?
そんなもの知ってたら、さっさとあんたみたいな男とは別れて、見合いでもして結婚するわよ!
と、声にならない悪態をつく。
「ほら、行くぞー」
ごろん、と姿勢を変え、情熱の赤に染められたソファーと、拓の生き生きとした顔を眺める。
見下ろされているから、益々、拓が横柄に見える。
憎たらしいなあ。
憎たらしいけど、魅力的なのも事実。
「わかった、起きるよ……」
「よしっ、行こう」
太陽のようにピカピカな拓。
颯爽と背を向けるご機嫌な彼を、パジャマ姿のままで追いかける。
あああ、何だかんだで現実はいつもこうだ。
できることなら夢で見た拓と、もっとセンチメンタルな恋愛がしたい。
手を取り合って、ロマンスいっぱいの薔薇なんか、背中に咲かせてみたい。
けれども、そう、現実は。
こんなにも、渇いている。
カサカサと音を立てて、薔薇の代わりに赤で汚れた新聞紙が、私の足に絡んだ。