芸術的なカレシ
「あ、あー……これは。
ちょっと時間かかりますね。
大丈夫ですか?」
大きなコピー機を分解しながら、嶋田くんは気難しそうに眉間にシワを寄せた。
やっぱり、この人は純粋に仕事に来ている。
事務所でお見合いムードなんて迷惑じゃないだろうか。
……微かにパウンドケーキの匂いがするんですけど。
「年代物だもんねえ。
そろそろ買い換え時かしら」
やはり、パウンドケーキをお皿に並べて、ユリエさんは上機嫌だ。
少しは空気を読んだらどうだろう。
「いえ、だましだまし使えるとは思いますよ。
そんなに使用頻度は高くないですよね?
部品交換すれば大丈夫です。
ちょっと、部品取りに車に戻りますね」
テキパキとした仕事ぶり。
好感が持てる。
背中が逞しい。
「あ、嶋田くん、私ねえ、これからちょっと用があるの。
代わりに瑞季ちゃんが、今日は残ってくれるから。
あとは二人で、ね?」
「えっ?」
せかせかとお茶の用意をして、ユリエさんは私に分かるようにだけ合図を送る。
二人きりなんて初耳なんですけど?
てか、その合図の意味が全然分からない。
「今日は鈴木さんたちにも、もう上がってもらうから。
社長は遅くなるし。
ね、あとは二人で」
ツンツンツン、と、肘で私をつつくユリエさん。
その露骨な合図はやめてほしい。
「僕は構いませんけど」
キラリン、と嶋田くんは営業スマイル。
そうよねえ。
奥さんがいようと私がいようと、嶋田くんの相手はあのゴツいコピー機だもの。