芸術的なカレシ
「ここに、パウンドケーキ、ね。
瑞季ちゃん、お茶は、ここ。
ごめんねー、嶋田くん」
お節介おばさんを絵に描いたような身ぶり手振りで、バタバタバタとユリエさんは出掛けて行った。
いったい、何なのだろう。
私はここにいて、いったい何をすればいいのだ。
まさか、ずっと嶋田くんを見ているわけにはいかないし。
「迷惑じゃなかったですか?」
「ふえ?」
コピー機に腕を突っ込みながら、嶋田くんが突然そんなことを言うので、私は変な声が出てしまった。
「お見合いの話です。
突然、困りましたよね。
すみません。
父が、強引なものですから」
いやむしろ、強引なのはユリエさんだし、迷惑なのはこっちの方だと思うのですが。
私はお茶が用意してあるテーブルに着き、いいえ、そんなことは、と、それとない返事をする。
「二度三度お会いしたとはいえ、いきなり見合いだなんて。
このご時世に、ちょっとないですよね。
あんな、豪華な見合い写真まで用意して。
かえって、申し訳なかったです」
あんな、豪華な見合い写真……
ああ、あの、きらびやかな表紙の。
嶋田光樹くん、35才。
「 いえ。
でも、あのお写真は、あまり写りがよくないみたいです。
実物の方が、ずっと素敵です」
あ。
言ってしまってから、いきなり変なこと言っちゃったかな、と思う。