芸術的なカレシ
「あはは、あれは……
そうですか、嬉しいです。
ありがとうございます」
そう言って相変わらず営業スマイルな嶋田くんは、顔色一つ変えない。
あれ、意外にこの人、女性に慣れてるのかな。
「私、お見合いとか初めてで、よくわからなくて。
お返事しないままで……すみません」
いえ、それは、別に、と、嶋田くんは工具をカチャカチャと動かす。
働く男。
うん、格好いい。
どこかのフリーターとは大違いだわ。
まあ、ペンキを塗る誰かの姿だって、きっと格好いいだろうけど。
「あ、私、邪魔だったら工場の掃除でも……」
「ああ、いえいえ、居てください。
工場は寒いですし、僕も、話し相手がいてくれた方が、楽しいですから」
コピー機と格闘しながら、嶋田くんは爽やかな笑顔だ。
この人、けっこう女慣れしてるのかもしれないな、と思う。
私は拓しか知らないけれど、男の人ってこういう時、楽しいですから、なんてサラッと言えるものなのだろうか。
「瑞季さん、趣味は、何ですか?」
趣味?
ああ、いよいよ、お見合いらしくなってきた。
嶋田くんはさっきから、ほとんどコピー機ばかり見ているけれど。
「趣味、ですか。
……音楽鑑賞、でしょうか。
映画も観ますけど」
「映画ですか。
僕も映画は好きです。
どんなのが好きですか?」
「ああ、私、アクションとかは苦手で。
サスペンスとか、サイコホラーとか、好きで。
あとは邦画ですね」
「邦画、いいですね。
僕もアクションは好きじゃないんです。
SFやファンタジーもあまり観なくて。
僕は小説も少し読みますから、原作と映画を見比べたりするのが好きなんです。
それで頼まれてもいないのに、勝手に原作者気取りになって、ああだこうだ批評したりするんです。
面倒臭い性格でしょう」
嶋田くんはえくぼを浮かべて、爽やかに笑って見せる。
面倒臭い?
全然。