芸術的なカレシ






「いえ、わかりますよ。
私もそうです。
前の彼氏には、そういうの、めんどくさいって言われましたけど」



「あ、本当?
僕も、5年付き合った彼女に、そういう所が面倒臭いって、フラれました」



「5年ですか。
私も10年付き合った彼氏に」



「うわあ! 10年!?
すごいなあ、倍も先輩だ」



案外、嶋田くんとの会話は自虐ネタで弾んでいた。

5年付き合った彼女、か。
だからなんだ、と思う。

この人も私と同じで、最初から相手に予防線を張っているのかもしれない。
僕は多分、今のところ誰にも本気になれない、と。

嶋田くんは5年付き合った彼女のこと、きっと忘れられていないのだろう。
他の女の子とその気になれないから尚更、少し軽薄そうな言い方ができるんだ。

その気持ちは、私にもよく分かる。
直ぐに誰かと恋愛に発展できる心境ではないからこそ、軽い会話が楽しめる。

僕とのお見合いは、いつでも断ってくれていいよ、という、嶋田くんの言葉なき態度は、前の彼女がそうさせているに違いないと思った。





「……似てますね、僕たち」



嶋田くんの声のトーンが落ちて、思わずドキリとしてしまう。

感じていることは、多分、同じ。
私達はもしかしたら、上手に傷を舐め合うことができるかもしれない。



「……そうですね。きっと」



この予感は的中するだろうか。

嶋田くんは一瞬、営業用ではない、とても悲しいような寂しいような、優しい笑顔を見せてくれた。





















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