芸術的なカレシ
デート?
家に帰ったのは、9時。
ポンコツコピー機はなかなか直らなくて、私達は会話を楽しみながらパウンドケーキを夕飯代わりに平らげた。
嶋田くんは独り暮らしで、いつもご飯は適当らしい。
ユリエさんのパウンドケーキにはニンジンが入っていて、ケーキで野菜が取れるなんてありがたいと言って、嶋田くんがほとんど食べてしまった。
「どうだったの?
嶋田くんとのお見合いは」
お鍋の湯気の向こうで、母親がニヤニヤした顔をしている。
今日はモツ鍋。
キャベツとニラ、モヤシもたっぷり。
「いい人だった。
趣味も合うし。
今度、映画に行く約束をした」
そう言って口いっぱいにモヤシを頬張る。
アチアチアチ。
「もうデート!?」
母親はびっくり顔。
そんなに驚くことかな。
「え、だって。
お見合いって、結婚を前提に男女が会うことでしょ?
普通だと思うけど」
「ああ、そうか。
まあ、そうよね」
けれど、当の私が一番ドギマギしているのも事実。
拓以外の男の人とデートなんて高校生ぶりだ。
色んなことを忘れてしまっている。
どんな服を着たらいいのかなあ、とか。
約束の時間より少し早く着いた方がいいよなあ、とか。
歩く時の距離ってどのくらいがベストなんだろう。
触れ合わないくらいの距離?
拓とは一緒に居すぎて、もう随分距離感なんて図ったことがない。
最初の頃はもちろん、ドキドキしていたんだろうけどなあ。