芸術的なカレシ






クリスマスイブはよく晴れた。


あれから私の頭の中は、明日香の結婚パーティーのことでいっぱいで、何も準備ができないまま当日を迎えてしまった。

鏡の前でいつものお団子頭を作る。
ベージュのタートルニットに赤いチェックのネルシャツ。
擦り切れそうなほど履いているデニムのスカートにリブタイツ。
寒そうなので、フォックスファーのついたダウンを羽織る。

いつもと変わらない。
変わらなすぎる。
ああ、せめて洋服くらい新しいのを新調しておくべきだったかな……



「もうちょっとお洒落しなさいよ」



そんな私の姿を見て、母親が大きな溜め息を吐いた。
それから、ちょっと待ってなさい、と、自室からシンプルなカチューシャを持って出てくる。
ボタンがワンポイントに付いた、ナチュラルな雰囲気のカチューシャ。
それをそっと、お団子頭に乗せてくれた。



「楽しんで来なさい」


まるで願掛けでもするように、母はカチューシャに向かって呟く。
そのちょっと真剣な表情を見て、心配してくれてるんだなあ、と少しだけ胸が熱くなった。


嶋田くんは、最寄り駅まで車で来てくれることになっていた。
専ら自転車と電車でデートを繰り返していた私には、ドライブデートは新鮮。

助手席で、いったいどんな顔をして座っていればいいんだろう。
トイレに行きたくなったら、何て言えばいいかな。
そんな考えても仕方のないことを考えながら、
駅で彼を待っていた。








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