芸術的なカレシ
ボルボを駐車場に停め、嶋田くんと並んで繁華街を歩いた。
ついこの間、拓とも歩いたばかりなのに、私の隣を歩いているのは別の男の人。
なんか、変な感じ。
私の歩調に合わせて、ゆっくり歩いてくれる嶋田くん。
拓にはいつも、おせーよ!って、怒られてたっけ。
あいつ、歩くの早くてさ。
いつも、振り返ってはおせーよ、おせーよ、の繰り返し。
ああ、あそこで牛丼食べて、あの量販店で、初めて紅に会ったんだっけ。
「お蕎麦は、大丈夫?」
「ふぁ?」
拓と紅のことを考えていた私は、嶋田くんの声で現実に引き戻される。
てか、ふぁ?って……
我ながら情けない返事。
「お蕎麦。
この先に、美味しいところがあるんだけど」
「あ、お蕎麦! 大好きです」
「天ぷらがまた、うまいんだ」
「わあ、天ぷらも大好きです」
ああ、サクサクの天ぷら。
家で天ぷらをやると、いつも拓はエビばっかり食べてたっけ。
あと、魚肉ソーセージの天ぷら。
嶋田くんオススメのお蕎麦屋さんは、お洒落な雰囲気でしかもとても美味しかった。
前々からリサーチしてたのかな。
それともこういうお店はいっぱい知ってるとか?
やっぱりぼんやりしているようで、嶋田くんは侮れない。